「自殺」を読んだ
末井昭さんの「自殺」を読みました。
朝日出版社ISBN978-4-255-00750-2 1600円(税別)
末井さんといえば「写真時代」とか「パチンコ必勝ガイド」を作った天才編集者であり即物的かつ実用性が高くてドPOP極まるそれらの雑誌群はある程度以上の年齢の男性だったら無意識のうちに一回は手にとったことがあると思います。
そんな末井さんが生と死についてつづった一冊で、すべての林業従事者にとってこれはもはや福音書です。もしあなたが今週から林業に身を投じた(たぶんいい歳の)若手だったら、林業の天下り団体が作った技術書よりも先にこちらを読むべきです。
え?自殺と林業がどう関係があるのかって?
それはね!
林業は「死ぬ」からです。
「カイジ」という漫画で巨大な鎌を持った骸骨タイプの死神がギャンブル中の登場人物の背後で首を狙って漂ってる場面が出てきますが、林業に従事してる間はずっとそんな状態なのです。
昇柱器で木のてっぺんに到達すると、景色がいいときもありますが、今この枝が折れたら…とかはまだしも、この胴綱を外せば転落して死ぬというか、ここは安全でも、1メートル先は空中なので、ケツにジェットエンジンでも搭載してない限り落下したら死ぬかもしれません。そんなに特殊な状況でなくても、かかり木が突然作業者に激突して死ぬかもしれないし、転んだ拍子に刈払機の刃が前で作業してる人の頸動脈を切断してその人は死ぬかもしれませんし、スズメバチやマムシの毒でショック症状に陥って死ぬかもしれません。
そしたら、そんなの林業じゃなくたって都会で電車のホームに立てば1メートル先は電車に轢かれて死ぬだろ!という意見を降霊したシーボルトがグリンピースをどけながらメソメソつぶやいたと大川隆法からたった今、LINEできましたが、都会と山林では全く異なる点があるのです。
それは、闇の濃さ。
実は私は身内を山で亡くしています。朝元気に出かけていった人が、夕方にはもう生きて帰ってこなかったのです。その日の夜に感じた月明かりや星明りも届かない林の中の闇の深さと静けさがとても恐ろしかったのを今でも覚えています。山を遊び場のように思ってたのが、人間のひとりやふたり、あっさりと吸い込まれてしまう得体の知れない巨大な生命体のような気がしたのです。(時たまWEB上などで散見する、ビバ!自然!ブラボー!林業!ノーモア非人間性!グッバイコンクリートジャングル!みたいなゴキゲンな言説に私はなんか違和感を覚えるんですが、その根幹にあるのはたぶんこのときの体験です)
こういう気持ちを末井少年も抱いたに違いないと一方的にシンパシーを覚える箇所があり(それは読んでからのお楽しみ)個人的に末井さんのファンである私は無闇に嬉しくなりました。
そしてなにより終盤に登場する自殺を考えてる人にむけた「どうか死なないでください」という言葉の優しさ、力強さ。林業手帳に貼るべき大切な人の写真が無い人はこの言葉をぜひ心にとどめるといいと思います。
とまあ、かなり無理やり林業にこじつけてみましたが、実はそんな必要は全く無いとても素敵な本ですので、全人類にオススメであり、読んでないのに比較するのもアレなんですが、タイトルからして欺瞞臭がプンプンなベストセラー(らしい)の「なぜ生きる(1万年堂出版)」シリーズなんかより遥かになぜ生きるのか考えられると思いますよ。
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