「新白河原人」を読んだ
守村大さんの「新白河原人」を読みました。
講談社1500円(税別)ISBN978-4-06-364873-7
週刊モーニング誌の巻末に連載されているコラムで、拙ブログでも何回かその驚異的な内容について触れたことがあったと思いますが、ついに単行本化されました。待望の!
内容はいわゆる「田舎暮らしのエッセイ」なんですが、田舎暮らしなんつうと定年退職した夫婦がスローだのロハスだのダッシュ村だのいって僻地の廃屋をリフォーム、蕎麦を打ったりしてダラダラと所詮は豚の余生を過ごすようなイメージが(私は)あると思いますが、これらの陳腐なフレーズが一個もあてはまらないまさにプリミティブな原人ぶり。
「東京ドーム1個分の雑木林を切り拓き自給自足を目指して暮らす漫画家のスローでもロハスでもない奮闘雑記」であり「齢47にして、ライフスタイルを180度激変させた漫画家の驚愕の記録」(本文扉および帯より)を飄々とした文章、そして(素人のブログだと私も含めて写真を添えて説明してるようなことを)すべて氏の硬派かつ柔らか味のある絵で綴った本なのです。しかも守村さんはそんなご自分を「浅ましい」なんておっしゃってる!
サブタイトルは「遊んで暮らす究極DIY生活」ですが、遊ぶといっても飛行機のおもちゃを両手に持ってぶ〜んとかいってるわけではなく、林業であり土木工事であり強度の肉体労働。ハッキリ言ってそのへんの林業従事者(たとえば私とか)なんかよりはるかに高度なことをやってのけている。
作品にバイクが頻繁に出てくる守村氏ならではの機械のイラストはかっこよく、重機とか機械の講習で配られる教本の挿絵の数億倍ステキ。冒頭の写真で肩に担いだチェーンソーのスターターがたるんでるのとか紐が切れて自分で適当につけた感がして親近感が持てます。また「強烈なのが脳天を直撃して、万一のため被っているバイクのヘルメットをガリガリと掻きむしっている。」等のヒヤリハットどころではない眼を疑うような記述も最高です。
そしてなによりこの本というか守村さんの思想には人間を自然より優位においているというか自然をコントロールできると思っているような傲慢さがありません。現代の日本林業の根底にもある「美しい森づくり」とか、一般的に言われる「地球にやさしい○○」という言説は欺瞞でありお為ごかしに過ぎず、生態系が破滅しようが温暖化が進もうがそんななもは人間の概念を超えない話。いや、そうではなく人間には「倫理」と「知性」が備わってる以上自然に対して責任を持つのは当然なんだよ。例えばこんな議論は絶対に交わることがなく、なぜならばそれは「良いか悪いか」が「正しいか否か」の基準になっているからだと思うんですが、この本は「面白いか面白くないか」を「正しいか否か」の基準且つコンセプトとしている(漫画誌の編集者を介すので当然といえば当然なんですが)からこそ(ただ、エンターテイメントではない教科書的議論は面白いかどうかを基準にできないのはしょうがないと思います)単なる「田舎暮らしのエッセイ」に止まらないのだと私は思います。
いろいろ考え慣れない理屈を述べましたが、この新白河原人をモーニングで初めて読んだときの感触が、何十年も山仕事をしている大先輩になんでこの仕事をしているのか質問したら「ハハン」と笑われた時の腑の落ちように大変似ていたので、私はこの本をたくさんの人が読むといいなあと心から思うのです。
あと、目次の誤植はわざと?そしたらすげえ心憎いよ!
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